丹念な修正を繰り返した結果、尺時計の歯車はようやく滑らかに動くようになりました。
振り子の役目をする「テンプ」と呼ばれる部品を取り付けます。
このテンプの往復運動によって時計のリズムは一定に保たれます。
まさに歯車に命を吹き込む時計の心臓部なのです。
1.3キロのおもりをぶらさげてネジを巻くといよいよ試運転の開始です。
動き出したとはいえ、いつ止まってしまうのかまだ安心はできません。
佐藤さんは尺時計の状態を常にチェックできるように、すぐ隣に寝泊まりすることにしました。
尺時計が止まったら音ですぐわかるように、他の時計はすべて振り子を止めてから仕事をします。
「夜中でも止まったら起きてまた直して寝るようにしているんですけれどね。
なかなか厳しい状況が今続いています。ではお休みなさい。」
11月、佐藤さんは尺時計を収めるケースの製作にも取りかかりました。
尺時計の歯車は止まることもなく順調に動き続けています。周囲を囲む飾り棒を取り付けると、
いよいよ完成も間近です。 ここまで来るためには組立と分解を100回以上繰り返し、歯車の修正を続けてきました。
仕上げに歯車の噛み合う部分や軸受けの部分など、金属どうしがが触れ合う所に丹念に油を注していきます。
「完成ですね。やっと完成しました。」 佐藤さんが尺時計の製作に取りかかったのは6月のこと。
歯車を作り直したことも一度だけではありませんでした。歯車の数がわずか4組の尺時計。
とはいえ、その製作には半年もの時間がかかりました。「ええ、もうやっと、
やっとですね、ほんま長かったです。今ほっとしたところです。
ええまあ、うれしさもありますがねー、うれしさよりもほっとしたというのが実感ですね。」
時を刻み始めた佐藤さん手作りの尺時計。時間をかけさえすれば、江戸時代の職人の技にも届くことができる、
と佐藤さんは言います。更に高度な江戸時代の櫓時計をすべて手作りで製作したい。
その将来の夢に向けて強い手応えを得た大きな一歩でした。
夜の冷え込みが厳しくなる秋から冬にかけては、
月面の写真を撮影できるような大気の状態の良い日はほとんどありません。
それでも佐藤さんはわずかな可能性に賭けて月を見つめます。
1999年佐藤さんが月面を撮影できた日はわずか7,8日に過ぎませんでした。
「これでだいだい4分の1秒くらいだと思うんですけれどね。まあ多少誤差はありますけれど
、大体です。」数少ないチャンスをいかに逃さず写真に捉えるか。
この1年佐藤さんが撮影した写真には月面写真家としての意地と自負とが込められているのです。
自宅で集中して作業している佐藤さんにとって、ほんのつかの間息をつく瞬間が毎日3回の犬の散歩です。
この短いあい間にも佐藤さんはその日の夜空の状態のチェックを怠りません。
目の前の時計と38万キロかなたの月。佐藤さんは2つの世界を見つめています。
時計職人として、月面写真家として、宇宙の鼓動をその右目で感じ取っているのです。
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